ドイツ刑法と日本刑法
2010年 03月 02日
そのことは、とくに「刑法解釈学」といわれる学問領域での独特の精緻な理論構成の分野に見られるのですが(構成要件論、違法論、責任論、未遂論、共犯論など)、ここでは、最近来日されたドイツの刑法学者の講演記録の中から、社会の変化に応じて変遷する刑法思想の流れという観点から見たドイツ刑法の現状について、2,3の点を紹介しておきたいといと思います。
第1は、1970年代以降、ドイツでは姦通罪を含む風俗犯の非犯罪化に代表される「緩刑化」の傾向が定着していたが、最近では、環境犯罪、組織犯罪、経済犯罪、コンピュータ犯罪、マネーロンダリング、テロ団体の結成、人質犯など、多数の新しい犯罪が立法化され、法定刑も加重される傾向にあるとされている点です。これらの点は、日本の場合とも共通する世界的な傾向であるといってよいでしょう。
第2は、しかしその場合にも、なお「寛容」の精神が底流に存在し、重罰化には控え目で慎重であって、「緩刑化」が犯罪の増大を招くものではないことは国際的比較によっても裏づけられているといわれている点です(フリッシュ教授)。EU加盟国として、死刑が廃止されていることもあげられます。この点では、日本社会には「リベラル」な精神が少なすぎると思います。
ドイツでも、現代は「危険社会」といわれていますが、将来への選択肢は、市民の保護と寛容という視点に基づいた刑法の展開にあるとされています(ハッセマー教授)。私としては「保安処分」制度に疑問がありますが、ドイツから学ぶべきものが多いと感じました。