医療観察法の見直し論議
2010年 01月 11日
ところが、裁判所の判例は、医療観察法上の措置を優先し、これを「触法精神障害者」対策として特化することによって、むしろ一般の「精神保健福祉法」との連携を妨げる方向にあることが懸念されます。それは、「医療観察法」の由来をかつての「保安処分」論議に引き戻し、立法時の国会における「修正」の意義を過小評価する論調と符合しているように思われます。
それが杞憂でないことは、最近の法律雑誌上の学者の論稿の中に顕著に現れていることからも推測できます(「刑事法ジャーナル」19号、2009年、特集「医療観察法の現在」所収の3論文)。そこでは、山本輝之教授が、人格障害者を一律に除外することは本法の存在意義を失うとして「治療可能性」の拡大を示唆し、林美月子教授は、本法が同様な重大犯罪の再犯防止を目的としているものと明言され、安田拓人教授も、保安処分論における「再犯のおそれ」を前提として、本法の対象行為の「故意」犯罪の内容を分析すべきであるとされています。
これらの論稿のそれぞれに一理があることを認めた上でも、私が不思議に思うのは、本法を保安処分的に運用せず、「医療法」として「精神保健福祉法」との連携を図る方向での「見直し」提案〈日弁連刑事法制委員会〉がその存在すら指摘されず、これに対応する学界の意見(私見を含む)も全く無視されていることのほか、わが国の「精神医療一般」の極めて貧困な状態の抜本的改善という最も大事な提言も見出せないところにあります。