最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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オランダの安楽死

 去年の暮れから正月3ヶ日まで、ペーター・タック著、甲斐克則編訳『オランダ医事刑法の展開―安楽死、妊娠中絶・臓器移植』(2009年、慶応大学出版会)の書評の原稿を書く仕事に集中し、1月4日に終了して、原稿を送りました。今年の初仕事です。
 オランダの安楽死については、すでに日本でも多くの紹介がありますが、妊娠中絶や臓器移植の問題を含めて、いわゆる「オランダ方式」の特色をまとめたところに本書の魅力があります。タック教授は、随一の知日派で、日本にも親交のある学者が多く、私自身もかつてタック教授の著書を共訳したことがあります(タック『オランダ刑事司法入門』2000年、成文堂)。
 本書でタック教授は、オランダでは安楽死法(2001年)で事実上「殺害を認可」したものであるという一般の評価が偏向した「誤解」に基づくものであることを証明するために、オランダにおける安楽死の長い論議の過程を丹念にフォローし、判例と立法の内容を詳細に分析されています。しかし、それにもかかわらず、なお理論的にはすっきりしない部分が残されているところに、むしろ「オランダ方式」の特色があるように感じられるのです。
  オランダ法の特色は、「安楽死」が刑法上は「同意殺人罪」に当たることを前提として、しかし一定の「相当な注意(due care)」の基準を満たせば緊急避難として正当化されることを認めつつ、しかし医師には届出と報告の義務があり、地域審査委員会の審査に基づいて検察官が訴追決定を行うという「審査手続」が予定されている点にあります。そして現に(2002年現在)、毎年3000件以上の生命終結が行われ、その40%が届け出られるが、起訴件数は非常に少なく、過去10年に起訴されたのは10件で、すべて執行猶予判決が言い渡されたといわれています。このような「審査手続」は、限界事例に対する慎重な対応策として評価できるものといってよいでしょうが、そのことと「安楽死が正当化され得る」という前提との関係がどうしても矛盾しているように思われるのです。
 
 
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by nakayama_kenichi | 2010-01-05 13:28