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最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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公訴時効の延長・廃止問題

 「公訴時効」とは、犯罪の発生後一定の期間の経過によって、それ以上公訴の提起を許
さない制度のことをいいます。その期間を過ぎますと、時効が完成し、手続が打ち切られ
ます(免訴の判決)。この古くから認められてきた制度が最近揺れてきています。
  それは、とくに「全国被害者の会」(あすの会)を中心とした被害者運動からの影響で、
被害者の立場からすれば、とくに殺人の被害者である遺族の感情が時の経過によって薄
れることはあり得ないので、殺人罪の時効は撤廃すべできであるとさえいわれるのです。
 そして現に、そのような被害者の声を反映して、2005年には公訴時効の期間が延長され
たのですが(たとえば、死刑にあたる罪については、15年から20年に)、それでも足りない
として、再延長や廃止まで主張されるようになってきているのです。
 この問題については、法務省は肯定的で、2009年5月の省内勉強会を経て、9月の前法
相の勉強会では、殺人罪については時効を廃止するのが相当であるというところまで動いて
いました。しかし、この問題についても、政権交代の影響が及ぶ可能性があります。
 日弁連は、このような時効期間の延長や廃止には原則的に反対の立場を表明しており、学
会にも慎重論が多いと言ってよいでしょうが、問題はその理由づけにあります。時間の経過
とともに犯罪の社会的影響が微弱化し、証拠も散逸するので捜査も防御も困難になるなどの
点に加えて、最近では犯人自身の社会的安定のために必要であるという説が有力です。
 ここで重要なことは、公訴時効の制度が「被疑者」のための制度であって、「被害者」のた
めの制度ではないという点であり、時の経過によって起訴理由が減少し時効期間の経過によ
って国家の刑罰権を発動するために必要な「訴訟条件」が欠けることになるという説明です。
 ここに被害者の感情を介入させることは、かえって被害者の心の負担を拡大させることにも
なるおそれがあるように思われます。民主党の冷静な対応に期待したいところです。
 
by nakayama_kenichi | 2009-10-19 10:00