最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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波瀾万丈の体験的昭和史

 最近、不思議なご縁で、近くの大津市在住の88歳のご婦人と連絡がとれ、さっそく電話がかかり、ご自分の体験をつづった書物を送って頂きました。それは、堀井湖芳(さかゑ)さんの『羈旅(たび)の想記―がむしゃら婆の体験的昭和史』(2008年2月、株式会社パレード)と題するユニークな書物です。
 これは、著者が83歳の頃から3年をかけて自分がこれまで歩んできた道を実に丹念に記録したものですが、まずはその抜群の記憶力と苦境にめげない「がむしゃらな」パワーが読む人の心を惹きつけます。朝鮮の木浦に生まれ、父母といったん内地に帰った後、満州の大連から新京(長春)に移って終戦を迎え、敗戦後はソ連軍に脅かされながら無蓋車で内地に引き揚げ、その後は夫が死亡したため、1人子をかかえながら寡婦生活のさまざまな苦労を経験し、再婚の後も北海道に渡ってきびしい自然と対決し、最終的に、滋賀県の大津に青山の地を見出すまでの間、家族や親族との相次ぐ別離や、生きて行くための職探しなどの生活苦を体験した有様などが淡々と語られています。
 なかでも注目されるのは、そのような環境に翻弄されそうな中にあっても、著者が書道と画道の初心を忘れず、数々の受賞の対象なった書や絵を描き続けて来られた点で、とくに中国の古い仏画とめずらしい「甲骨文字」(2000年前に使われ、地下に埋没されていた象形文字)が、本書の表紙を飾っているのが印象的です。
 なお、「編集後記」を書かれた息子さん(堀井谷峰氏)の文章も、母を思う味わいのあるもので、とくに、21世紀の人類の課題(戦争、地球環境、食料危機)を解決するにも、狭量な「愛国心」ではなく、国家主義を超えた「人間愛」と「生命愛」を中心に据えるしか道はないと指摘された後、結論的には「母親は父親よりも偉大なり」と述懐されている点に深く共感しました。
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by nakayama_kenichi | 2009-08-25 08:50