最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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未完の刑法

 『未完の刑法』とは、上田寛・上野達彦氏の共著(2008年、成文堂)の題名で、「ソビエト刑法とは何であったのか」という副題がついています。それは、1917年のロシア革命によって成立した社会主義刑法が、1991年のソビエト連邦の崩壊によって、「未完」に終わり、したがって社会主義刑法の研究も「未完」に終わったことを意味しています。しかし、果して何が未完に終わったのか、本当にそれは未完に終わったのかを問い直し、それぞれの時代ごとにソビエト刑法と刑法思想の変遷を歴史的に回顧し総括したうえで、残された課題を探るという手法によって多面的なフォローがなされています。
 私自身も、「ソビエト刑法」の研究を手がけた者として、改めて本書を読み、感慨を深くしました。社会主義刑法の最大の特色は、刑法の「階級性」を大胆に提起したことで、それは資本主義刑法の「階級的矛盾」を批判した点ではインパクトがありましたが、肝心の社会主義刑法が「階級性のない共産主義社会」に向けて「刑法の死滅」を展望できたかといえば、それこそ「未完」に終わったといわざるを得ません。
 私の素朴で最大の疑問は、働く庶民の利益を代弁しこれに奉仕するはずの共産党などの勤労者政党が、なぜこの基本的な使命に反し、かえって一つの「特権的な集団」に成り果てたのかという点にあります。社会主義の体制は、働く庶民の利益を擁護するものであり、党や政府にはその可能性が与えられていたにもかかわらず、その信頼と期待を裏切った責任は限りなく重いというべきでしょう。
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by nakayama_kenichi | 2009-05-02 17:23